日本ではまだ「ワインは特別な日の飲み物」というイメージが強いかもしれません。一方フランスでは、ワインは嗜好品を超えて、日常生活やビジネス、教育の場にも溶け込んでいます。本記事では、食卓・ビジネス・教育という3つの視点から、フランスのワイン文化を深掘りしてご紹介します。
1. フランスのワイン消費量と日本の違い
ワインはフランスの食文化を語る上で欠かせない存在です。年々消費量は減少傾向にあるものの、それでも、フランス人一人あたり年間22.5リットル(ワインボトル約30本)を消費しています。
一方、日本人の年間消費量は約3リットル(ワインボトル4本程度)。数字を見るだけでも、ワインがいかに日常に根付いているかが分かります。
2. ユネスコ無形文化遺産にも登録された「フランス料理」
フランス料理は「食の伝統」としてユネスコの無形文化遺産に登録されているほど、世界的に高く評価されています。食卓を囲むことが一つの文化であり、家族や友人と共に料理を楽しむことが重要視されているフランスにおいて、ワインは欠かせない存在です。
なぜなら、ワインは単なる飲み物ではなく、料理との調和すなわち「マリアージュ」を通じて、食体験をより豊かなものにする役割を担っているからです。
バゲットやチーズが日常の食卓に並ぶのと同じように、毎日の食卓を飾るワインもまた、日々の暮らしを彩る飲み物です。
3. アペリティフ(食前酒)の習慣
食前にワインを楽しむ「アペリティフ」。フランス語で“食前酒”という意味のアペリティフは、食前酒と軽いおつまみで会話を促し、人間関係を円滑にする役割があります。
アペリティフから食事に移る、というのが時間に余裕があるとき、あるいは週末の食事スタイル。またレストランでの一般的な食事形式でもあります。
アペリティフでは軽めのワインを選び、食事に入る際に、前菜にはこのワイン、メイン料理にはあのワイン……というように、料理との相性(これがマリアージュと言われる考え方)を考慮したワインを選ぶのです。
4. 地域ごとの料理とワイン
フランスでは「地元の料理には地元のワインを」という考え方が根強くあります。ブルゴーニュではピノ・ノワールやシャルドネ主体のブルゴーニュで生産されたワインが、またボルドーではメルローやカベルネ・ソーヴィニヨン、ソーヴィニョン・ブランなどを主体としたボルドーワインが日常の食卓を支えます。
例えばボルドーのレストランでも家庭でも、シーフードの前菜には、ソーヴィニョン・ブランを主体としたボルドー産白ワインを合わせるのが一般的。どんなに相性が良くとも、ロワール産のソーヴィニョン・ブランはもとい、ニュージーランドはマールボロ産のソーヴィニョン・ブランを選びたいといえば、びっくりされるはず。そしてそれらを取り揃えている現地レストランも少ないと思います。
5. 料理とワインのおすすめマリアージュ
フランス料理の魅力をより深く味わうなら、「料理とワインのマリアージュ(組み合わせ)」をぜひ意識してみてください。
たとえば、フォアグラにはボルドー・ソーテルヌの甘口白ワイン。フォアグラの濃厚な旨味を爽やかな甘みと酸が引き立てます。牡蠣にはロワール地方のミュスカデが定番ですが、ボルドーの辛口白ワイン(グラーヴやペサック・レオニャン)も相性抜群です。
鶏肉を使った料理なら、ボルドー右岸サンテミリオンのメルロ主体ワインが優雅に寄り添い、煮込み料理やローストに深みを加えます。赤身のステーキやジビエには、しっかりとししたタンニンが感じられる左岸のカベルネ・ソーヴィニョン主体のワインが肉の旨みを引き出してくれるはず。
チーズには、同じ地域のワインを合わせるのが基本ですが、次の組み合わせもおすすめです。ブルーチーズには甘口のソーテルヌ、旨みの強いハード系チーズにはボルドー左岸のカベルネ主体の赤ワイン、ほのかな酸味が魅力の山羊のチーズにはロワールやブルゴーニュの白ワインがよく合います。ボルドーの白ワインなら、樽にかけたものを選ぶとチーズの味が際立つと思います。
文章にするとややこしく感じますが、難しく考える必要は全くありません。「揚げ物とビール」が最高の組み合わせだと言うことは、誰もがご存知のことでしょう。そう、食べ物と相性の良いお酒、実は誰もが経験的に分かっているのです。
フランスの食材を買ったときには、フランスのワインも一緒に買ってみる。そして味わってみる。また、普段の食卓でも、和食とのマリアージュを楽しめる組み合わせは無数にあります。和食に合うボルドーワインをチャートにまとめてました。
このようなおいしい食体験を積み重ね、ご自身ならではのマリアージュの発見を楽しんでみてください。
6. ビジネスにおけるワインの役割
フランスでは、ワインは商談や接待の場でも重要な役割を果たします。レストランでの会食や接待ワイナリーツアーは単なる飲食の場ではなく、信頼関係を築くためのコミュニケーションの場でもあるのです。
- 日本のように形式に従った会食ではなく、自然な会話を重視
- ワインや食文化の知識は、現地パートナーとの距離を縮める武器になる
- シャトー見学では、造り手の哲学や地域文化を学べる
また、フランス人は相手の自国文化への理解にも敏感です。日本から出張する際には、自国の和食や文化についても話せる準備をしておくと、商談がスムーズになるでしょう。
7. 教育とワイン 文化を未来へつなぐ取り組み
ボルドーのようなワイン産地では、ワイン教育も体系的に行われています。大学や専門学校では、ブドウ栽培や醸造技術、テロワールの理解に関する学問が体系化されており、学生は理論と実践を同時に学びます。
また、地域によっては子どもたちが地元のブドウ畑を訪れ、収穫を体験する教育プログラムも存在します。こうした取り組みは、ワインが地域の文化に根付いている証と言えるでしょう。
実際に筆者の娘が通っていたボルドー郊外の保育園では、ぶどう収穫体験がプログラム化されていました。南西部の航空宇宙ビジネスが盛んなトゥールーズで生活していた頃には、全く無縁だったプログラムです。
8. フランスワインを楽しもう!
フランスにおけるワイン文化は、食卓・ビジネス・教育のあらゆる場面に根付いています。そういった背景もあり、ワインはフランス社会を理解するための文化的ツールでもあるのです。
とはいえ、最も大切なのは、ワインを楽しむこと。難しく考える必要はありません。「誰かがおいしいと言っていたから」ではなく、自分がおいしいと感じる1杯に出会えたら、こんなにうれしいことはないのでは? フランスの食材とワインを一緒に試してみるだけでも、新しい発見があるはずです。
また、現地に足を運べば、ワインを体感する機会は無数にあります。この記事で得た知識が、フランス旅行やご出張時に役立つことを願っています。現地でワイン体験をしたい方は、こちらからどうぞ。
BWC代表 鈴木 香穂里(©︎Kaori Suzuki BWC / 記事内容・チャートの無断使用はお控えください / 2025年8月末日執筆)